身のまわりのさまざまな製品に使用され、
いまや私たちの暮らしに不可欠な素材
おそらく一般の人々にとっては、「酸化チタン」という素材はあまり耳なじみのないものだと思います。しかし、酸化チタンはその優れた性質から、塗料やインキ、紙、プラスチック、繊維、ゴム、電子部品など身のまわりのさまざまな製品に使用され、いまや私たちの暮らしに必要不可欠なものになっています。ここでは、そんな酸化チタンの知られざる実力をご紹介します。
CONTENTS目 次
01About酸化チタンとは?
優れた性質をいくつも併せ持ち、
モノを彩る白色顔料として広く使用
酸化チタン(TiO2)は、地球上に広く分布する酸化鉱物の一種である「チタン鉱石」から生産される、不溶性の無機化合物です。優れた白色度を持ち、素地を覆い隠す力(隠ぺい力)や高い発色力、均一に分散する性質などを併せ持つことから、さまざまなモノを明るく彩る白色顔料として一般的に使用されています。白色顔料としての酸化チタンが工業的に生産されてすでに100年が経過し、その用途は時代とともに広がり続けています。
日常生活に欠かせない材料として
身のまわりのさまざまな製品で活躍
酸化チタンは白色顔料として全世界で年間約700万トン以上生産・消費されており、日本国内では年間約16万トン生産され、このうち日本国内出荷は約11万トン、輸入品を含めて年間約16万トンが消費されています。顔料用途としては、住宅や自動車の塗料、食品包装材インキ、冷蔵庫・洗濯機等のプラスチック類(合成樹脂)やカプセル・錠剤等の医薬品、チョコレート・ガム等の食品の着色、ナイロン・ポリエステル等の化学繊維の艶消し剤など、幅広い分野で使用されています。
さらに微粒子化することで、
透明性や触媒性能も高まり新たな用途も
一方、顔料用途の酸化チタンよりも粒子径が一桁小さいナノ酸化チタンは、いまから40年ほど前に開発されました。微粒子化することで、紫外線の遮蔽性能を保ちつつ透明性を持たせることができ、さらに比表面積が大きくなることで触媒性能も高くなります。この特性を応用し、日焼け止め化粧品や、透明フィルム、トナー用添加剤、光触媒、ファインセラミックスなどの分野で使用され、さらに新しい製品領域への展開も進んでいます。
02Process酸化チタンの製法
鉱石を硫酸に溶解して製造する
「硫酸法」
酸化チタンの製造方法には、「硫酸法」と「塩素法」の二つがあります。硫酸法は、まず原料(イルメナイト鉱石)を濃硫酸に溶解させ、不純物である鉄分を硫酸鉄として分離します。この時にチタン分として得られた硫酸チタニルを加水分解することで、白色の含水酸化チタンを得ます。その後、焼成工程を経ることで、酸化チタンが生成されます。
ルチル鉱石を塩素化して製造する
「塩素法」
酸化チタンのもう一つの製造方法である塩素法は、まず硫酸法より品位の高い鉱石(天然ルチルなど)をコークス・塩素と反応させ、精製して四塩化チタンを得ます。次に、四塩化チタンを加熱して気体にし、高温で酸素と反応させ、塩素を酸素に置き換えることにより、酸化チタンが生成されます。分離した塩素は、リサイクルして四塩化チタン生成の反応に再利用するため、廃棄物の発生量が少なく、環境負荷が低い製法です。
03Environmental環境適性について
酸化チタンが秘める性能は
省エネルギーや環境浄化にも貢献
酸化チタンは環境適性にも優れた素材です。光の屈折率が非常に高く、この特性を活かした白色顔料は赤外線を反射する性質を持ち、建材の塗料に用いることで遮熱性を高め、空調の省エネルギーに貢献しています。また、光触媒性能を持つ酸化チタンは、紫外線などを吸収して有機物を分解する力を発揮し、脱臭・抗菌・防汚のほか、環境を浄化する効果が期待されます。さらに、高い比表面積を持つ触媒用酸化チタンは、火力発電所やゴミ焼却炉、自動車などから排出される窒素酸化物を除去する脱硝用途でも活躍しています。
製造工程における副生品も
環境を守るためのさまざまな材料に
酸化チタンの製造過程で副生品として得られる石膏と酸化鉄や硫酸第一鉄も、環境に貢献する製品として活用されています。石膏は、建材用石膏ボード用途のほかに、軟弱な土を自然に近い状態に固める「土質改良材」として利用されています。また、酸化鉄と石膏を主成分にして、汚染された水から重金属を吸着し、汚染土壌から重金属が溶け出すのを防止する「重金属不溶化材」を開発しています。さらに、酸化鉄と鉄粉を主成分として、汚染土壌や汚染水に含まれるトリクロロエチレンなどの揮発性有機化合物を分解する材料も提供しています。硫酸第一鉄は排水浄化用の凝集剤原料のほか、有毒重金属である六価クロム溶出防止の「土壌改良材」に活用されています。
04Safety安全性について
酸化チタンが使用されて100年、
健康被害の報告はありません
酸化チタンが工業的に生産されて100年、ナノ酸化チタンも40年以上が経過していますが、酸化チタンが原因と断定できる健康被害の報告はありません。法的には欧州CLP規則が唯一、特定の酸化チタンを発がん区分2と規定していますが、実際にはほとんどの酸化チタンはこの規定に合致せず安全に継続して使用されています。
安全性に関する研究データは絶えず更新されていくものであり、日本酸化チタン工業会としては、酸化チタンに関わる業界各社、および一般のお客様が安心して使用できるよう、今後とも情報収集とその検証に努めてまいります。
なお、酸化チタンは銘柄によって特性などが異なりますので、ご使用の際は該当品のSDS(安全データシート)を必ずお読みください。
05Future酸化チタンの可能性
進化を続けるデジタル社会において
いまや酸化チタンは不可欠な素材に
酸化チタンは、時代の変化に合わせて新たな機能を次々と生み出し、急速に進展するデジタル社会にも大いに貢献しています。たとえば、スマートフォンなどのIT機器には積層コンデンサが必要不可欠ですが、この電子部品を構成する物質は高純度酸化チタン、あるいは酸化チタン製造工程の中間品(高純度四塩化チタン)を原料に製造されています。社会のスマート化にともなって積層コンデンサの需要はますます高まり、5G、6Gと世代が進むにつれて酸化チタンの重要性もいっそう大きくなると予想されます。
人類の課題であるカーボンニュートラル(CN)
の実現にも酸化チタンは貢献していきます
いま世界が抱える大きな課題が気候変動対策であり、その中でも地球温暖化防止のためのCNに向けて世界が取り組んでいます。今後ますます進む自動車のEV化において、高性能なバッテリーとして主流となっているリチウムイオンバッテリーにも酸化チタンが使われています。このバッテリーには、チタン酸リチウム電極など酸化チタンや関連技術を用いた部材が適用され、中核の材料となっています。CN実現という人類が大きな変革に立ち向かうための重要な基礎材料として期待されており、今後ますます高度化・複雑化する社会課題に対して、酸化チタンはさまざまなソリューションを提供していきます。